ロシアのウクライナ侵攻

2022年2月24日、ロシアはウクライナへの軍事侵攻を開始しました。ロシア国境からドンバス地域へ、ベラルーシからキエフへ、クリミアから北上の3つのルートで侵攻しました。まさか21世紀になってロシアのような大国が本当に侵攻してしまうとは驚きましたが、どのような背景があったのか、この侵攻は何を意味するのか、今後ウクライナはどうなってしまうのか、この侵攻がもたらす日本をはじめとする世界への影響をまとめておきたいと思います。

ウクライナ

ウクライナはヨーロッパとロシアの間の地域で、東ヨーロッパにあたります。首都はキエフ、面積は603,628 km2、人口は4130万人でヨーロッパで7番目に人口の多い国です。時間はUTC+2で、日本と7時間の時差があります。第二次世界大戦後はウクライナ共和国としてソビエト連邦の一部でしたが、ソビエト連邦の崩壊に伴い1991年にウクライナとして独立しました。ウクライナは中立国を宣言しながらも、どちらかと言うとNATOよりでした。ウクライナはヨーロッパの中では2番目に貧しい国で発展途上国ですが、肥沃な農地から世界有数の穀物輸出国です。

現在大統領は6代目ウォロディミル・オレクサンドロヴィチ・ゼレンスキーです。元々コメディアンでしたが、2019年大統領選に立候補して当選しました。

ロシアのウクライナ侵攻の狙い

ロシアはウクライナは元々はソ連の勢力圏で、同じスラブ系の民族で、言語や宗教もロシアに近く、兄弟国とみなしていました。実際に東部ではロシア語を話す住民が多く、ロシアと結びつきが強いです。しかし2014年に欧米寄りの政権が誕生すると、ウクライナは共産国の独裁国家よりは、民主主義の資本主義国家を選び、NATOの加盟を望みました。NATOはもともと共産主義圏だった国々に民主主義を拡大させる呼びかけを担っていたため、東方拡大に危機感を抱いていました。(NATOには1999年にポーランドやチェコ、ハンガリーが正式に加盟。2004年にバルト3国などが加盟しました。)今回のロシアのウクライナ侵攻はそうした危機感の爆発でしたが、実際は領土拡大の侵略戦争に他なりません。

侵攻に至るまでの経緯

2014年3月ウクライナも領土だったクリミア半島を、ウクライナ政府の意向を無視して、クリミアとセヴァストポリにおける住民投票、独立宣言、併合要望決議、そしてロシアとの条約締結という段階で、一方的に併合宣言をしてしまいました。住民投票の投票率は86%で、96%の人々がロシア編入に賛成する結果でしたが、この結果には大きな疑念が残されていました。しかし日本を含む西側諸国はこれを認めておらず、国際的な承認は得ていません。しかしロシアにとってはソ連崩壊後初めての領土拡大でした。

去年の11月頃プーチンがショイグ国防相やパトルシェフ安全保障会議書記、ゲラシモフ参謀総長ら側近と会合を開き、ウクライナを狙った地政学的な修正プラン実現に向けた全面的準備が進行させ、12月3日に7万人もの兵を国境付近に集結させ、今年の2月23日には15万人以上に増強し、24日に侵攻しました。

侵攻の現状

ウクライナの犠牲者は8日の時点で474人と言っていますが、これは国連が確認した数で、実際ははるかに多いと思います。ロシア兵も最低4000人以上と推定しています。

チェルノブイリとザポロジェ原発はロシア軍によって占拠されてしまいました。今ロシア軍がプーチンの命を受けて、激しくキエフを攻撃し続けていますが、ウクライナの抵抗は想像以上で、2週間経ってもまだ堕ちていません。これにはウクライナ軍とロシア軍のモチベーションの違いと見て取れます。ロシア軍もクリミア併合の時とは違ってやる気が出ないのです。とは言えロシア軍は民間人を問わず無差別に攻撃しているのが現状です。

首都キエフを目指すロシア軍部隊

これは3月14日時点の侵攻具合ですが、首都キエフの攻撃を強めています。14日に4回目の停戦交渉が始まりました。

各国の対応

欧米をはじめとする西側諸国NATO陣営は直接戦争に加担するということはせず、経済制裁でもって太刀打ちしました。ロシアの持っている核の脅威に一歩引いた感じでの応戦といったところです。これは核戦争のになることを危惧してのことです。経済制裁の中でも一番強力なのがSWIFTからルーブルを締め出すといったものです。SWIFTとは国際銀行間通信協会のことで、ベルギーに本部を置く非営利組織で、国際金融の送金を手がけるいわば世界的な決済ネットワークです。これが利用できなくなると、貿易の決済が困難になるためその国の経済は孤立してしまうことになります。つまりルーブルがロシア国内でしか使えなくなってしまうため流通しなくなり、ロシア国内ではインフレ状態で物価がどんどん上がっていくことが予測されます。

欧米が厳しい制裁を科す中、中国だけはロシアに制裁を科さずむしろ支援する可能性さえあります。これは台湾侵攻見据えてのことだと思われますが、中国もロシア同様世界から切り離される可能性もあるため、出方が難しいというのが本音ではないでしょうか。中国やベラルーシ等独裁色の強い国ほどロシアをかばっている感じがします。

日本の対応

日本は欧米諸国と一致して、半導体などの輸出規制や金融機関の資産凍結などを行いました。しかしロシアの航空機に自国領空の飛行を禁止する制裁には慎重で、対抗措置で自国の首を絞めることに繋がりかねないからです。他に防弾チョッキやヘルメットを提供しました。

世界への経済の影響

ロシアで展開する外資系の企業はどんどん撤退しています。マクドナルドやスターバックス、ユニクロ、日産、トヨタといった大手がです。アメリカはロシアからの原油の輸入を禁止しました。但し経済制裁は与えた国にも跳ね返る諸刃の剣でもあります。ロシアはエネルギー輸出国で、天然ガスの埋蔵量で世界1位(世界の埋蔵量の24%)であり、石油の埋蔵量でも世界第6位(世界の6.1%)です。国土の広さが潤沢な資源をもたらしているのですね。他にもパラジウム、ニッケルなどの金属も輸出しています。となるとこれらの価格も上がってしまうため世界全体でが物価高になってしまうことが予想されます。

小麦、パラジウム、ブレント原油、トウモロコシ等ロシア生産のシェアが高い品が特に急騰しています。小麦はロシアがウクライナと合わせて世界の3割を供給しています。

為替の影響

ルーブルはドルに対して急落しています。これは経済制裁の影響です。

これはユーロ/ドルですが、ユーロが急落しているのはロシアへの経済制裁が欧州の経済へももろに跳ね返ってくることを意味します。特に2020年の統計では、ドイツの天然ガスの55.2%、石炭の48.5%、石油の33.9%がロシア産です。天然ガスに関しては1230kmパイプラインも作っています。極度の依存は危機に弱いのですね。

そしてこれはドル/円ですが、ドルが突き抜けるように上がりました。

これはユーロ/円ですが、ユーロは下がったものの対ドルほどではありません。

ロシア内部の反応

全ロシア世論調査センターは、プーチン大統領の2月28日の週の支持率が77.4%だったと発表しました。ウクライナ侵攻を始める前の2月14日の週は67.2%で、10.2ポイントの急上昇です。政権側は反政府系メディアや外国報道機関の活動を統制するなど、戦争の真実が国民に知られないよう躍起になっており、国民の大半はメディアによって洗脳されているようです。しかしネットの情報や口コミなどで、若者や有識者などはプーチンを支持しない者が増えているようです。これから制裁に入り、ルーブルがどんどん下がって物価が上がりインフレ状態になるとロシア国民の生活も苦しくなりますので、どこまでこの支持率が続くのかは疑問です。また今回のウクライナ侵攻を安全上の面で仕方が無かったとする見方と戦争は反対だとする見方で二分していますが、自分がメディアを通して得た限りの情報では、大半は反対しているのではないかと思います。その証拠に2月24日の侵攻以来、ロシア各地の反戦デモで拘束された人は1万5000人にも及ぶようです。

ロシアの警察がゲシュタポのように見えますね。今回ロシアのウクライナ侵攻の大義名分はウクライナの非軍事化と非ナチ化のようですが、それが必要なのはむしろロシアの方に思えます。

ロシアの国営テレビ・第一チャンネルのスタッフが、3月14日夜に放送された生放送のニューススタジオに乱入し、反戦のメッセージを掲げました。書かれていたのは「戦争を止めろ。プロパガンダを信じないで。彼らはあなたに嘘をついている」のメッセージ。第一チャンネル編集者のマリナ・オフシャニコワ氏です。彼女が拘束された後、同氏が事前に録画していた動画がネット上で拡散しました。動画の中で、「今ウクライナで起きていることは犯罪であり、その責任はプーチン大統領にある」と、自国の大統領を糾弾。 「残念ながら、私はこれまで何年も第一チャンネルで働き、クレムリンのプロパガンダに加担してきました。そのことを心から恥ずかしく思います」と伝えていました。言論規制がある中、勇気にある行動だと思います。彼女には3万ルーブルの罰金が科されましたが、これぐらいで済んでくれることを祈ります。人間としての良心が弾圧の恐怖に打ち勝ったのですね。珍しくロシア国民に感動しました。

一方プルシェンコはロシア批判に反発し、愛国精神をほのめかしていました。プーチンの元だから反発しにくいのか、本当にプーチン支持者なのか分かりかねますが、プーチンに恩義を感じているのは確かだと思います。